「ノボシビルスクってとこから来たんですよ。わかります?ノボシビルスク」
と隣のロシア人青年がいう。
「あー知ってる知ってる、東の方ですよね。」
キルギスからカザフスタンへ、国境を超えるバスの中。
五時間の旅である。
周りは砂漠というか草原というか木が一つもないだたっ広い平原だ。
バスは凸凹道と、舗装された道を交互に、スピードを上げたり緩めたりしながら、進んでいく。
「いや、東っていうか、真ん中かなー。結構この(カザフスタン)の近くですよ。」
「ああ、ノボシビルスクはそんなに東じゃなかったけ。
結構日本の近くな気がしてたけど、なにせシベリアは広いもんね。」
ところで、カザフスタンには何しに行くんですか?」
ここで、あ、ちょっと間抜けな質問しちゃったな。と思う。
この時期に若いロシア人の男性がカザフスタンにのんびり物見遊山に行くもんでもないだろう。
「いや、僕ら、ロシア人はキルギスとカザフスタンにはパスポート無しでいけるんです。」
となんとなくはぐらかすような答えを返すロシア人青年。
「なので、このあと、キルギスでパスポート出してもらうつもりです。で、インドへ行きます。父が働いてますから。」
と一息ついてすこし、ニヤリとした表情をしながら、
「なにせ、うちの国は ”ポリティカル・ディフィカリティ” がありますからね!」
と「ディフィカリティ」のところで指両手を頭の横に上げて、人差し指と中指を曲げて、クイクイっとカニのようなポーズをする。
海外の人がよくやる引用符(””)を示すポーズだ。
さてバスはもう直ぐ国境だ。
国境ではバスを降りてそれぞれ越えなくてはならない。
まあ、ほとんど問題が起きることはないが、陸路の国境越えは毎度すこしだけ緊張はする。
いちゃもんをつけられて賄賂を要求されたりしないとも限らない。
しかし、彼は、パスポートなしで、カザフスタンやキルギスに行けると言っていたけど、そんなことあるのかな。
このことを不思議に思い後ほど調べたら、ロシアでは「国内パスポート」と「海外旅行用パスポート」の二つがあり、国内用パスポートを使えば、「キルギス」「カザフスタン」「アルメニア」「ベラルーシ」に移動可能なのだそうだ。
かれが「パスポートなし」で、といったのは「海外旅行パスポートなしで」という意味なのだろう。
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